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せっかくだから風邪ネタでいっぱつ短文を書いてみました。ほんと落とすの苦手でいつも後半はリリカルポエムになってしまうぜ。

ソウパピです。

続き

【熱】

買い物を一通り済ませて帰宅すると、いつものように「おかえり」と顔を出したパピヨンが眉を顰めた。
伸ばされた白い掌が額に触れる。その冷たさを心地よいと感じる、ということは。
「熱があるな…。やれやれ、どこで伝染されてきたやら」
仕方ない、今日のトレーニングは休み。さっさと寝てさっさと治せ。まったく、自衛が足りんぞ…などと言いながらもどこか愉しんでいる様子で、パピヨンはてきぱきと寝間着と、氷枕と薬の用意をしていた。ぼうっと見ていると、シャツに手をかけてきたので慌てて振り払う。いい加減子供扱いするのは止めてくれと散々言っているのに。
「いいよ、自分で着替えられる」
寝間着を奪い取って着替える間にもどんどんと体がだるくなってくる。症状に気づくと途端に具合が悪くなったような気がするもので、ベッドにもぐりこむとすぐ泥のような眠りに落ちた。

結局丸一日寝込んで、やっと少しましになったもののまだ頭がぼんやりするのは、風邪のせいか薬のせいか。起きられないこともないが、布団から出るのも億劫でそのまま眠りと覚醒の間をいったりきたりしていた。
ふと、囁くように名を呼ばれる。
「夕飯と薬の時間だ。起きられるな?」
「んー…」
起きろ上着を着ろ起きたならうがいをしろと命令形の言い様は常と変わらないが、口調はいつもの張った声より随分トーンを落としたもので、熱で痛む体には響かなくてありがたい。と同時に風邪とはまた別の熱が体に生まれるのを感じる。風邪なんかひかなければ―――いや、風邪をひいたから、なのか。

温かい粥を頬張っているうちに、不意に洟が垂れそうになって慌ててティッシュで押さえる。すっかり赤くなっているだろう鼻の下はひりひりするし、目は腫れぼったいし、粥は旨いけれど喉にしみるしでつい零してしまった。
「ホムンクルスはいいよな、風邪なんかひかないんだ…ろ、」
言い終わる前に軽率だったと後悔する。
叱られる…と思ったが、後ろからついと手が伸びてきてくしゃくしゃと髪をかき回し、離れていった。
「食べたら薬を飲んで、もう少し寝なさい」
その声に怒りの色がなかったことに少し安心して、それでもやはり後悔した。
きっかけは忘れたが子供の頃にホムンクルスになりたいと言って、酷く叱責された記憶がある。そのときの彼の表情が忘れられない。お前は人間でいなくてはならないと絞り出すような声で言ったときの表情を言い表すならば、一番近い言葉はおそらく、「懇願」だろう。(その頃はそんな言葉は知らなかったが) 以来決して言うまいと思っていたのに、こんなところで口を滑らすとは。
今ふたたび怒られなかったのは、病人に対する配慮か言葉の綾と流したものかそれとも。
(それとも、パピヨンがホムンクルスになったのって、何か病気が関係してたのかな…)
彼は、ホムンクルスになってからの事はよく話してくれるが、それ以前のことは「死んだ男のこと」だからと殆ど喋ろうとしない。
俺の父親のことを語るときに断片的にあらわれる情報から推測するしかなかったが、俺が父の話を聞くことを喜ばなかったから、結果として何も知らないに等しい。十年以上も一緒に暮らしているのに。
ちりりと胸が痛む。

「ソウヤ?」
突然声を掛けられて、不自然なほど驚いてしまった。いつの間にか横から覗き込まれていたことに気づかなかった、いま俺はどんな顔をしていただろう。そんな筈はないのだろうが、まるで心中を見透かされたような恥ずかしさで取り繕うのもままならない。頬が赤くなるのを感じる。
「あ…いや、なんでも」
「しんどいなら、残していいから横になっていろ」
風邪の悪化によるものと思ったのか―――或いはそのふりをしているのか。彼の考えていることはいつも仮面の向こうに隠れてわからない。

過保護にも湯冷ましを用意し、必要な分だけの錠剤を取り出す指先を見つめながら思う。
早く風邪を治そう。治ったらトレーニングを再開して、早く強くなろう。 …そうしたら、いつか話してくれるだろうか、蝶になる前の彼のことを。

(終)

***********

マスクをしたままだとチューはできてもおでこごつんができないという大変なことに気づき初っ端で挫折するところでした!なんということだ!
それはそうとパピは元病弱だった経緯から、看病が上手いといいなというか、病人のして欲しい事を汲み取るのがうまいといいなと思います。
ソウヤはそれが完璧蝶人だからだと思っているけど実はそうじゃないんだよ、って感じで。
あと上手く入らなかったので削ったけどパピは割烹着着てます。そんで「お母さんの看病って感じだろ?」って言う。だいなしだ!

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